リトアニア料理


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基礎情報リトアニア共和国Republic of Lithuania、首都ヴィリニュス、ISO3166-1国コードLT/LTU、独立国(1990年、ソビエト連邦より)、公用語リトアニア語。通貨ユーロリタス

◆寒冷の恵みが味わえるマイルドな料理

リトアニアは小さな国ですが、ロシア、ラトビア、ベラルーシ、ポーランドと接しています。

バルト三国の1つであるリトアニアは、中世の頃、ヨーロッパ最強の公国の1つでした。激動の歴史の中で、侵略して国土が広がり、侵略されて国土が奪われる歴史の繰り返し。山岳地帯をもたない平らな土地は、侵略を含めて人の行き来も文化の伝播も多大だったのでしょう。現在のリトアニアは人口の8割がリトアニア人で、料理名にはリトアニア独自(リトアニア語)の名称がついているものの、その内容を見てみると周辺国に酷似しており、リトアニアだけに見られる独自の料理はあまり知られていません。

リトアニアの地物の食材は、伝統的には、小麦、大麦、ライ麦、じゃがいも、ビーツ、ベリー、きのこ、そして肉や乳製品など。これらは冬がものすごく寒い国に共通する食材です。短い夏に野菜を育て、夏の終わりにはきのこ狩り。秋に保存食を作り、寒く長い冬を乗り越える、そういう季節性のある暮らしが伝統的に営まれてきました。

リトアニア料理の主食はドゥオナ(パン)です。
ルギネドゥオナ(ライ麦の黒パン)が好まれており、バターを塗ったりチーズスライスを乗せていただきます。クミナイ(キャラウェイ)で風味をつけたライ麦パンや、グルーデートイドゥオナ(直訳:粗いパン、パンの中に小麦やライ麦の種子が入っている)も好まれます。残って固くなったパンから作るケプタドゥオナ(細切りのパンを油で揚げたもの)は、おやつやビールのおつまみです。日本にもパンの耳を切って揚げるおやつがありますよね。あんな感じです。

リトアニア料理の立役者、ブルブ(じゃがいも)について。
じゃがいもは、18世紀後半にリトアニアに流入しました。アイルランド料理のページでも書きましたが、じゃがいもは欧州各国(特に寒冷地)における救世主的食材となりました。リトアニアでは、ゆでたり焼いたり炒めたりすりおろして形を変えたり、じゃがいも料理のバリエーションは豊富です。

ブルビニブリニは、じゃがいものすりおろしををフライパンで焼いて作る「お焼き」で、ウクライナのデルニーやベラルーシのドラニキと同じ料理です。ベーダライはすりおろしたじゃがいもを入れて作る、見かけソーセージで中がじゃがいもというユニークな料理です。厳密にはベーダライにはじゃがいも入りと血液入りの2種類があり、厳密にじゃがいもソーセージと言うときはブルブベーダライと呼びます。また、ブルブプロクシュタイニス(又はクーゲリス)は、アシュケナージ(東欧ユダヤ人)料理のクーゲルと同じく、すりおろしたじゃがいもと卵で作る焼きプディングです。ククリはじゃがいものすりおろしをまるめてゆでた、イタリアのニョッキに似た料理です。ディチュククリ(又はツェペリニ)は、「ディチュ」が飛行船を意味する、すりおろしたじゃがいもでひき肉のあんを包んで飛行船型に成形してゆでて作る料理です。硬式飛行船を開発したドイツのツェッペリン伯爵の名前が「ツェペリニ」という料理名になっているのも面白いですね。
リトアニアのじゃがいも料理はまだまだありますので、また追記していこうと思います。

次に、肉料理を紹介します。
肉類では豚肉が一番食べられます。牛肉、羊肉、鶏肉、ウサギ肉、アヒル肉も食べられています。ベブリエノストロシュキニス(ビーバー肉のシチュー)なんていうものもあります。肉類の調理法では、グリル、パン粉をつけて焼く(シュニッツェルすなわちトンカツのよう)、オーブンで焼く、煮込むなどが一般的です。また塩漬け肉、乾燥肉、燻製肉(ハムやソーセージを含め)といった肉の貯法も発達しています。ソーセージはデシュラと言い、スモークソーセージだけでなく、フレッシュソーセージや血のソーセージなどさまざまなバリエーションがあります。

世界的に有名な英語ガイドブックのリトアニア編には、「リトアニアではアニマルの奇妙な部位がよく食べられる」と書いてありました。スーパーには、通常の精肉類のほか、鶏のトサカや獣の耳をはじめ、その「奇妙な部位」が普通に売られていました。これぞリトアニアの食!? リトアニアでは、スーパーマーケットの見学もおすすめです。

リトアミアではまた、ラシュニという豚の脂身(ウクライナのサーロと同じ)も名物です。またシャルティエナ(又はコシェリエナ)はドイツのアスピックやロシアのハラデーツに似た、肉や魚や野菜のゼリー寄せです。バランデーリは日本人にもおなじみのロールキャベツです。シャシリクは玉ねぎにんにく香辛料レモンなどでマリネした豚肉を金属串焼きにする、中東方面からユーラシア大陸の広域に広まった料理です。

東方から伝播したと思われる料理はほかにもあります。
私たちになじみの餃子がリトアニアにもあり、コルドゥネ(又はビルティニ)と呼ばれます。ポーランドのピエロギやウクライナのワレニキ、ロシアのペリメニ、アシュケナージユダヤ人(東欧ユダヤ人)のクレプラハと同系統の餃子料理ですが、中身は肉に限らず、チーズやきのこが入ることもあります。また、キビナイはカライム人(カライ派ユダヤ人)というテュルク系の人々がもたらした料理で、小麦粉を練った生地で肉のあんを包んで焼く、中央アジアのテュルク系民族の国々(ウズベキスタンなど)のサモサに由来する料理です。カライム人居住区であるトラカイ(今は有名観光地)にはキビナイのお店がたくさんあると聞きます。そしてチェブレキはまるでロシアのピラジュキ(ピロシキ)で、パン生地でひき肉ソテーなどの具を包んで揚げた(又は焼いた)平たいパンです。

ところで、リトアニアは海に面しているものの、魚介類はそれほど食べられていません。魚はカワカマス(英:pike)、カワメバル(英:perch)などの淡水魚が主流で、焼いたり、お腹に詰め物をしたり、ツミレにしたりしていただきます。海の魚ではニシンがメジャーで、塩漬けや酢漬けにして食べることが多いです。

リトアニアは乳製品が豊富かつ重要です。
スビエスタス(バター)、スーリス(チーズ)、グリエティネー(サワークリーム)、ピエナス(ミルク)など、他の東欧の国と同じく、あらゆる料理に乳製品を使うと言っても過言ではありません。乳製品はクラパイ(ディル)との相性が良く、よっていろいろな料理でクラパイが風味づけになっています。

次に、リトアニア料理には欠かせないスルバ(スープ)を紹介します。
バルシュチロシアのボルシュ(いわゆるボルシチ)で、ビーツを使った赤い熱いスープです。シャルティバルシュチという冷たいボルシチも国民食で、ビーツとサワークリームを混ぜて作る、一度見たら忘れられない不透明ピンク色のスープです。


不透明どピンクスープはリトアニアの国民食!(撮影地ニダ)

ビゴスはお隣ポーランドでも国民食で、「狩人のシチュー」とも呼ばれるように、その日獲れた肉、ソーセージ、キャベツやザワークラウト、きのこなどを、火にかけたり火から降ろしたりを繰り返しながら2~3日かけて煮こんだものです。そのほか、ブルビニューククリュースルバ(すりおろしたじゃがいもで団子を作ってミルク煮にしたもの)や、トリンタブルブスルバススール(チーズとじゃがいものポタージュ)など、ほかにも種々のスープ料理があります。

おやつにも食事にもなるブリナーリは、フランスのクレープと同じ料理(語源としてはロシアのブリヌイが近い)で、リトアニアではとってもポピュラーです。肉のそぼろを乗せて巻いたものは食事にもなります。

伝統的おやつなら、スプルゴス(ドーナツ、ポーランドのポンチキと同じ)や、シャコティス(コンペイトウのように生地が角立てて焼きあがったバームクーヘンの原型、結婚式にも登場するおめでたいケーキ)がおすすめです。

飲み物なら、デグティネ(ウォッカ、麦やじゃがいもから作られる蒸留酒)を飲むと旧ソ連らしさを味わえます。アルス(ビール)もポピュラーな飲み物で、リトアニアの地ビールはソ連から独立した1990年以降は国際的にも評価され、受賞もしています。なお、リトアニアはブドウ栽培には適さず、ワインは輸入のお酒という位置づけで、ほかのお酒に比べるとお値段お高めです。

ソフトドリンクでおすすめなのがギラです。ロシアウクライナのクワスと同じ、パンと水を発酵させた無~微アルコール性の炭酸飲料で、1000年以上の長い歴史があると言われます。市販の工業生産品は薄いコーラ味で、キリッと冷えたものは美味しいです。

以上、リトアニア料理について、概要を書きました。
暑い国では自然と食材が育まれるものの、寒い国では食材の種類は多くありません。なのにリトアニアは料理の種類がいっぱいあります。これを読んでくれた人がもしリトアニアに行かれるのならば、千差万別な料理に仕上がるじゃがいもや、アニマルの奇妙な部位が豊富に売られているスーパーマーケット散策を是非楽しんできてほしいなと思います。パンチのある香辛料をあまり使わず、乳製品を多用するマイルドで優しい味わいですから、多くの日本人が楽しめる味ではないかと思います。

◆リトアニアに行ったら、これ食べよ♪

【ドゥオナ(duona)・・・パン】
・グルーデートイドゥオナ(Grūdėtoji duona)・・・パンの中に小麦やライ麦の種子が入っている。
・ケプタドゥオナ(Kepta duona)・・・細切りのパンを油で揚げたもの。
・ルギネドゥオナ(Ruginė duona)・・・ライ麦の黒パン。

【ブルブ(Bulvių)・・・じゃがいも】
・クーゲリス(Kugelis)・・・すりおろしたじゃがいもと卵で作る焼きプディング。
・ククリ(Kukuliai)・・・じゃがいものすりおろしをまるめてゆでた料理。ニョッキ。
・ツェペリニ(Cepelinai)・・・すりおろしたじゃがいもでひき肉のあんを包んで飛行船型に成形してゆでる。
・ディチュククリ(Didžkukuliai)・・・ツェペリニと同じ。
・ブルビニブリニ(Bulviniai blynai)・・・じゃがいものすりおろしををフライパンで焼いて作る「お焼き」。
・ブルブプロクシュタイニス(Bulvių plokštainis)・・・クーゲリスと同じ。
・ベーダライ(Vėdarai)・・・見かけソーセージで中がじゃがいもだったり血液だったり。
┗ブルブベーダライ(Bulvių vėdarai)・・・厳密にじゃがいもソーセージと言うときの名称。

【小麦粉の皮で包む料理】
・キビナイ(Kibinai)・・・小麦粉を練った生地で肉のあんを包んで焼く。
・コルドゥネ(Koldūnai)・・・餃子。
・チェブレキ(Čeburekai)・・・パン生地でひき肉ソテーなどの具を包んで揚げる(又は焼く)。
・ビルティニ(Virtiniai)・・・餃子。

【肉料理】
・コシェリエナ(Košeliena)・・・肉や魚や野菜のゼリー寄せ。
・シャシリク(Šašlykai)・・・マリネした豚肉を金属串焼き。
・シャルティエナ(Šaltiena)・・・肉や魚や野菜のゼリー寄せ。
・デシュラ(Dešra)・・・ソーセージ類。
・バランデーリ(Balandėliai)・・・ロールキャベツ。
・ベブリエノストロシュキニス(Bebrienos troškinys)・・・ビーバー肉のシチュー。
・ラシュニ(Lašiniai)・・・豚の脂身。

【乳製品】
・グリエティネー(Grietinė)・・・サワークリーム。
・スーリス(Sūris)・・・チーズ。
・スビエスタス(Sviestas)・・・バター。
・ピエナス(Pienas)・・・ミルク。

【スルバ(Sriuba)・・・スープ】
シャルティバルシュチ(Šaltibarščiai)・・・ビーツとサワークリームを混ぜて作るピンク色のスープ。
・トリンタブルブスルバススール(Trinta bulvių sriuba su sūriu)・・・チーズとじゃがいものポタージュ。
・バルシュチ(Barščiai)・・・ビーツを使った赤い熱いスープ。
ビゴス(Bigos)・・・肉、ソーセージ、キャベツやザワークラウト、きのこなどの長時間煮込み。
・ブルビニューククリュースルバ(Bulvinių kukulių sriuba)・・・じゃがいも団子のミルク煮。

【軽食やおやつ】
・シャコティス(Šakotis)・・・コンペイトウのように生地が角立てて焼きあがったバームクーヘンの原型。
・スプルゴス(Spurgos)・・・ドーナツ。
・ブリナーリ(Blyneliai)・・・クレープ。

【飲み物】
・アルス(Alus)・・・ビール。
・ギラ(Gira)・・・パンと水を発酵させた無~微アルコール性の炭酸飲料。
・デグティネ(Degtinė)・・・ウオッカ、麦やじゃがいもから作られる蒸留酒。

【風味づけ】
・クミナイ(Kmynai)・・・キャラウェイ。
・クラパイ(Krapai)・・・ディル。


[kuwakuwa]